四谷にて

僕の友達に一郎というやつがいる。
彼との出会いは何か運命的なものがあった。
僕が高校を卒業して上京、ほどなくして深夜のコンビニエンスストアでバイトを始めた時のこと。
店長がいった。
「そういや、お前と同じくらいの歳のやつがいるよ」
東京にきてから友人が全くいなかった僕にとって、バイト先で同年代の男の子がいるというのはとても嬉しかった。
しかし基本的に深夜のコンビニは二人体制だったので、僕とベテランの砂さん(コンビニ店員歴約6年、当時25歳のコンビニバイトの神)というコンビだったので、その男の子と会うことはしばらくなかった。
僕の勤めていたコンビニエンスストアは自宅からとても近く歩いて5分ほどのところにあったので、よく通ったりしていた。
時たま店内に入り、店長に挨拶した時に「なんかもってけやー」と、賞味期限の切れたおにぎりや弁当を、本当はだめなんだけど僕に持たせてくれたりした。
食費が出費の大半を占めていた僕にとって、そのご好意にかなり救われたものだ。



そんなある日、ふとコンビニに入ると僕と同い年ぐらいの男の子が働いているのが目に入った。髪の毛は黒くて、そのときは確かメガネをかけていたと思う。一生懸命働く姿をぼーっと見ているとその男の子と目があった。
「……」
「……」
なぜかお互いに驚いた表情で立ち尽くしていた。
きっと彼も、僕の存在を店長から聞いていたのかもしれない。
次第に顔がにやにやしてくる。
彼もにやにやしていた。
そして近づくと挨拶をした。
軽くお互いの自己紹介をして、彼が音楽をしていることを知る。
「あ、バンドやってるの?じゃあ今度ライブとかあったら見にいくよ」
そうしてメールアドレスを交換した。
それが一郎との出会いだった。



しばらくして彼のライブに誘われた。
どういうジャンルをやっているかも詳しくは聞かされていなかったし、
とりあえず見るといった感じでライブ会場へと足を運んだ。
しかし、その「とりあえず」といった僕の考えは
ステージに現れた彼によって粉々に砕かれることになる。
衝撃だった。
髪を一心不乱にかき乱してベースを狂った様に弾く彼に、僕の目は釘付けだった。
きっと僕はライブを見ながらショックを受けたと同時に
そのステージをニヤニヤしながら見つめていたと思う。
実力がどうとかいうレベルではなく、その楽曲とステージ上のそのバンドを僕は大好きになってしまったのだから。
今は残念ながらなくなってしまったそのバンドの名は「撫子」という。



彼と親友になるのに時間はかからなかった。
家も近かったし、何よりも話があった。
彼と音楽について熱く語り、バカなことをいっては笑い転げ、休日にはギターをもって河原で歌を歌い、そして、そんな彼の音楽活動を僕はライブハウスのフロアから見続けてきた。



そして時は現在。
僕は群馬に戻り、彼はバンドが解散した後も一人東京で音楽活動を続けていた。
「この日のライブはマジ大事だからできるだけきてほしい」
群馬と東京を繋ぐ電話口で彼はそういった。
僕は内心仕事があるから難しいと思っていたのだが、幸運なことにその日に休みがとれた。
どうやら撫子時代から彼を知る友人達も集まるらしい。
胸が高鳴った。



2005年4月14日、東京。
夕方の陽も落ち始めた頃、ライブハウスの前で待つ僕のもとに彼がやってきた。
「水、水買わないと!!」
どうやらトラブルがあり、開場15分前にリハが終わったのだそうだ。
かなりてんぱっていた。
ちなみに彼からは「四谷でライブをやる」としか言われておらず、どこのライブハウスでやるのか聞いていなかったのだが、本番3時間前に場所がメールで送られてきたのには笑った。
「おせーよ!!」
メールに突っ込む僕は、まあこういうところも一郎らしいなと思った。



今日のライブは大切。
そう彼が言ったのは、各種レコード会社の方々が彼のライブを見にくるためだ。
彼はバンドがなくなった後も、一人音楽を作り、それをオーディションやレコード会社に送っていた。
そして、それに対して芽がでたということだ。
なので彼のライブは通常の出演者とは違い、オープニングアクトという形でのライブだった。



あいも変わらず彼の楽曲は素晴らしかった。
事前にMDを送ってもらっていたのだが、それとはまるで違う、ステージ上での彼は以前より研ぎ澄まされていたように思う。
ボイストレーニングに行っていたという話はきいていたが、確かに歌も上達していた。
そして僕は初めて彼のライブを見た時のように、衝撃をうけニヤニヤしていたと思う。
僕は一郎の曲が大好きだ。
そして、変な意味ではなく一郎も大好きだ。
普段一緒にいる時は音楽が好きで、漫画が好きで、ちゃっちいお菓子が好きで、酒が苦手で、気に入ったレンタルエロビデオを熱烈にすすめてくれて、ひきこもりぎみだけど、
ステージにたつと気がふれたようにベースをかき鳴らし、意味不明のMCで開場に微妙なややウケを提供してくれる。
そんな一郎を僕は心から応援している。



ライブ終了後、撫子時代からの友達と飲みにいった。
撫子のボーカル、現在はagehaとして活動しているなっち。
当時撫子のマネージャーをしていた可愛い女の子という言葉は彼女の為にあるあんなちゃん。
たまにアメリカにいっちゃったりする、一郎の同郷男気溢れる九州男児ジョージくん。
そして一郎。
あと俺。
皆、会うのは1年ぶりだったりしたのだけれど全然久しぶりの気がしない。
当時の思い出話に花を咲かせつつ、僕の恋愛相談をして頂いたりした(マジありがとございます)。
本当に楽しい時間だった。
しかし僕に関して言えば、若干酒に飲まれ後半だんまりだった感は否めないがそこらへんはお許し願いたい。



お酒も飲んじゃったし、終電もなくなったということで
今現在この日記を新宿の漫画喫茶からこうして書いているわけですが
やっぱり音楽っていいね、友達っていいね、飲みっていいね、東京って面白いね、ということです。
本当は朝早くから東京きて遊び倒しその後ライブに行こうと思っていたのだけれど、
起きたら昼の12時過ぎてて驚愕、東京についたのは15時半だったけれど何と内容の濃い半日だったことか。
一郎の次回ライブはまた来月の後半にあるのですが、休みがとれたらまた顔をだしたいと思います。



なんつって書いてたらそろそろ始発の時間です。
さーって!!
今日もお仕事がんばるぞ〜☆(多分超暇)